経営
前回は、自社の「儲けの構造」を理解するため、赤字にならない売上ラインである「損益分岐点」や、本当の稼ぐ力を示す「限界利益」といったテーマでお金に関する情報をお届けしました。
第6回となる今回は、視点を「コスト(費用)」に移し、多くの経営者が頭を悩ませる経費管理の疑問について、引き続きQ&A形式で解説を進めていきます。
「うちの工場の整備士の人件費、果たして適正なのだろうか?」
「広告は出しているけれど、本当に元が取れているのか分からない…」
「減価償却費って、ただの会計上の数字としか見ていなかったけど…」
「部品の在庫、どれくらい持っておくのが一番儲かるんだろう?」
今回は、こうした人件費、広告宣伝費、減価償却費、そして在庫という代表的なコストに焦点を当て、それらを単なる出ていくお金ではなく、経営を強くするための味方と捉えるためのヒントをお届けします。ぜひ、ご自身の工場に置き換えながら読み進めてみてください。
「コスト」を味方につける!賢い経費管理のQ&A
人手不足が深刻な今、整備士の人件費は経営者にとって最大の関心事の一つでしょう。しかし、単に「給料が高い・安い」で判断するのは危険です。金額の多寡だけでなく、「一人当たり売上高」と「労働分配率」という2つの指標で判断するのが適切です。
まず見るべきは「整備士一人当たりの年間売上高」です。これは、整備士一人が1年間でどれくらいの売上を生み出しているかを示す重要な指標です。
この数値は、自社の決算書から簡単に計算できます。
「総整備売上高」は損益計算書、「整備要員の人数」は自社で把握している人数を使います。まずはこの計算式で、自社の現状を正確に把握することから始めてください。
先ほど計算した自社の数値を、業界の目安である800万円~1,200万円と比較し、どのレベルにあるのか客観的に評価してみましょう。
これらの指標を基に、「うちの生産性なら、給与はこの水準が妥当だ」「もっと給与を上げるには、一人当たりの売上をここまで伸ばす必要がある」といった、根拠のある給与設計が可能になります。周辺地域の同業他社の水準を参考にしつつ、評価制度やインセンティブを設けることも有効です。
最も大切なのは、人件費を単なるコストではなく、未来の売上を生み出す投資と捉える視点です。
適切な待遇は、従業員のモチベーションを高め、優秀な人材の確保と定着に繋がります。その結果、技術力が向上し、顧客満足度が上がり、最終的には工場の売上となって返ってくるのです。
「広告を出しても、本当に効果があるのか分からない…」これは多くの経営者が抱える悩みです。勘に頼った広告投資から脱却しましょう。
まず、「誰に」「何を伝えて」「どうしてほしいのか」、目的を明確にします。
次に、効果を測るための物差しとしてROASを用意します。
例えば、Web広告に10万円を投じて、その広告から50万円の車検売上があったとします。
この場合のROASは500%となる。
ROASは広告の成果を測る上で非常に分かりやすく、効果的な指標です。
ただし、ROASの数字だけを見て「プラスの施策だ」と即断するには、一つだけ注意点があります。それは、「売上」と、原価を差し引いた「儲け(粗利)」を分けて考えることです。
例えば、広告費10万円で売上が11万円だった場合、ROASは110%となり、一見するとプラスの施策に見えます。しかし、もしその売上11万円を上げるための部品代(原価)が6万円かかっていたら、どうでしょうか。
儲けは「売上11万円 - 原価6万円 = 5万円」しかありません。この5万円の儲けを出すために広告費を10万円払っているので、結果的に5万円の赤字になってしまいます。
儲け(粗利) 5万円 < 使った広告費 10万円
このように、儲けが広告費を下回ってしまっているため、ROASの数字は良くても、実は赤字広告だったと一目で判断できるわけです。
もし、この儲けが12万円だったら、
「儲け(粗利) 12万円 > 広告費 10万円」となり、文句なしの「黒字広告」と言えます。
ROASは「広告がどれだけ売上を稼いだか」を測るための便利なツールです。まずはこのROASをしっかりチェックし、その上で「生み出した儲け(粗利)は、使った広告費を上回っているか?」という最終チェックを行うことで、本当の意味で「儲かる広告」を見極めることができるのです。
ちなみに、広告宣伝費は原則として全額を経費として計上できます。未来への投資として、戦略的に活用しましょう。
減価償却費は、会計の中でも特に分かりにくい項目かもしれません。しかし、この仕組みを理解すると、経営の見え方が大きく変わります。
重要なポイントは、「費用としては毎年計上されるが、実際のお金(現金)はその年に出ていかない」という点です。
減価償却費とは、高額な設備(リフトや診断機など)の購入代金を、その使用可能年数(耐用年数)にわたって少しずつ費用として帳簿上で計上していく会計上のルールです。
これにより、「利益は赤字でも、手元のお金は減っていない(むしろ増えている)という状況が起こり得ます。例えば、利益が-50万円の赤字だとします。ここで思い出していただきたいのは「利益」とは、すでに減価償却費が差し引かれた後の数字だということです。
なので、お金の実際の動きを見るためには、一度引かれてしまった、お金の出ていかない費用(この例では減価償却費200万円)を、単純に足し戻してあげる必要があるのです。
この性質を理解すると、減価償却費を戦略的に活用できます。
帳簿上、下記のような2工場があるとします。
A工場:税引前利益100万円+減価償却費200万円
B工場:税引前利益300万円
この場合、それぞれの税金と利益は…
自社の設備の減価償却がいつ終わるかを把握しておきましょう。減価償却が終わると、その翌年からは費用が減るため、その分だけ利益が増え、税金も増えます。そのタイミングを見越して次の設備投資を計画することで、安定した経営が可能になるのです。減価償却費は、未来の投資計画を立てるための重要なシグナルと捉えましょう。
在庫は、お客様を待たせないためのサービスであると同時に、会社の現金をモノに変えて眠らせているコストでもあります。
このバランスを取るために有効なのが「ABC分析」です。在庫を「金額」や「出庫頻度」でランク付けし、管理にメリハリをつけます。
業界の目安として、在庫回転期間は約18日という数値があります。この数値を基準に、自社の在庫が例えば1ヶ月以上も売れずに眠っていないか、一度棚卸しをして確認してみることをお勧めします。
今回は、自動車整備工場の経営者が特に頭を悩ませるコストに関する4つの疑問にお答えしました。 人件費を生産性とのバランスで評価する「労働分配率」の考え方、広告の効果を具体的に測定する「ROAS」といった指標、そしてお金の支出を伴わない費用である「減価償却費」を、将来の設備更新のための見えない積立金として戦略的に活用する方法まで、日々の経営判断に直結するテーマを取り上げました。
コストは、ただ削減するだけのものではありません。その性質を正しく理解し、賢く管理することで、会社の資金繰りを助け、未来への投資の原資となる強力な武器に変わるのです。
さて、儲けの構造を理解し(第5回)、コストを味方につける方法を学びました(第6回)。次はいよいよ、未来への成長を描くための、より攻めの財務戦略です。
次回、【第7回】では、「未来の成長を描く!投資と仕組みの疑問解決編」と題し、新しい機械をリースと購入のどちらで導入すべきか、銀行からの借入との賢い付き合い方、そして、ものづくり補助金やIT導入補助金といった、国からもらえるお金(補助金)の上手な探し方・使い方まで、より一歩踏み込んだテーマについて解説していきます。どうぞご期待ください。
【免責事項】 本記事は、一般的な会計の考え方を分かりやすく解説することを目的としており、税務に関する具体的なアドバイスを行うものではありません。税務に関する最終的な判断は、必ず顧問税理士にご相談ください
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ビズピット㈱代表 小野健一(オノケン)
1981年大阪府吹田市生まれ。2006年兵庫県立大学大学院を修了後、自動車部品メーカーにて14年間主にディーラーオプション部品の企画から設計、販売まで一貫した事業開発を経験。2020年自動車アフターマーケット向けの事業開発を行うビズピット株式会社を創業。自動車事業開発の第一人者。 …
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